クラリネットの吹き方(アンブシュア)を考えてみる
2015年 08月 02日
クラリネットの吹き方でマウスピースのくわえ方の事を、フランス語でアンブシュア(embouchure)と言います。
アンブシュアと言うと口の周りの形を言う事がありますが、今回は口の中の話しを書きたいと思います。
クラリネットの吹き方を知っている人は「何のこと?」となるかも知れません。
それもそうです。
日本で習う吹き方は普通1種類しかありません。
ところが、今まで習った先生方のアンブシュアを大きく分けると3種類いたおかげで、僕は3種類のアンブシュアを使い分ける奏法になってしまいました。
なので、3種類の吹き方(アンブシュア)を紹介していきたいと思います。
〇 普通のクラリネットの吹き方
まず、普通のクラリネットのアンブシュアです。
と言うと、下唇を下の歯に巻き、上の歯をマウスピースにのせ、上唇でマウスピースを包み込む感じで息を入れる。
口の周辺の筋肉は、人それぞれ力を入れるところ方向が違う。
〇 ダブルリップでクラリネットの吹き方
オーボエやファゴットの吹き方と同じで、下唇と上唇を巻いてマウスピースをくわえます。
上唇の巻く量は、下唇と同じで人によって違うようです。
イメージとしては、赤ちゃんのおしゃぶりが近いと思います。
日本ではほとんどダブルリップでクラリネットを吹いている人はいないと思います。
少し前までは、ダブルリップでクラリネットを吹くなんて考えられないほどでした。
しかし、僕がイタリアで習ったイタリア人の先生方、イタリアで習ったアメリカ人の先生がダブルリップで演奏をしていました。
イタリアに行って、多くのクラリネット奏者がダブルリップでクラリネットを演奏している事を知った時は、とても驚きました。
では、どうしてイタリアではダブルリップで演奏している人が多いのでしょうか?
調べてみると、20世紀初めの頃までイタリアで使われていた教則本が原因でした。
例えば、ボニファーツィオ・アジオーリ (1769 - 1832)がクラリネットの為にも書いた「Transunto dei principj elementari di musica e breve metodo per clarinetto」と言う教則本に描かれている当時の運指表を見ると・・・
どうでしょうか?
現在とは逆方向にマウスピースが付いているのが分かると思います。
この向きにマウスピースを付けていると普通の吹き方ではなくダブルリップで吹かなければ音が出ません。
イタリア人のクラリネット奏者はマウスピースをこの向きにして吹いていたのかもしれません。
その後、誰かが「逆だった!」とか「マウスピースを逆につけたほうが吹きやすい!」と気が付いて、現在と同じ向きになったのかもしれません。
マウスピースは逆になったけど奏法だけ残ったので、今でも多くのイタリア人クラリネット奏者はダブルリップで吹いているのかもしれません。
僕が習っていたミラノ・スカラ座管弦楽団首席クラリネットのファブリーツィオ・メローニは「僕の先生は生徒にダブルリップで吹くように教えていた」と言っていました。
〇 アンソニー・ジリィオッティのクラリネットの吹き方
僕が大学を卒業した年、アメリカ・フィラデルフィア管弦楽団首席クラリネットだったアンソニー・ジリィオッティ(Anthony Gigliotti 1922 - 2001)にホームステイをしながら習うことが出来ました。
今考えるとジリィオッティはイタリア系のアメリカ人でした。
ジリィオッティから習った奏法は誰も吹いている奏法ではありませんでした。
彼は「何とかダブルリップで演奏が出来ないものか」と考えた結果の奏法でした。
マウスピースのくわえ方は、普通のクラリネットと同じで下唇のみを巻きます。
上の歯はマウスピースに当てないで上唇の力だけでマウスピースを押さえるという奏法でした。
楽器が安定しないので右足のかかとに楽器のベルを載せて演奏するスタイルでした。
立って演奏が出来ないですが、今ならストラップを付けて演奏が出来るかもしれません。
〇 まとめ
普通のクラリネットの奏法が最も安定をしていると思いますが、ダブルリップなどの奏法を使うとどのように変わるのでしょうか?
先ほど、ダブルリップの所で赤ちゃんのおしゃぶりの事を書きましたが、自分の親指で試してもらうとわかるかもしれません。
まず、親指を上と下の歯で甘噛みをする感じでおしゃぶりをしてみます。
その後に、上唇と下唇を巻いて親指に歯を立てないようにおしゃぶりをしてみます。
違いが分かりますか?
上唇を巻くと喉の奥が自然に開きます。
この開くのが良いのか悪いのか人それぞれだと思いますが、音色に変化が出ます。
現在、僕はこの3種類の奏法を曲や箇所によって変えていますが基本は普通の奏法ですが、これを機会に自分の奏法を細かく分析してみようかと思っています。